「諦めた瞬間、チャートが語りかけてきた」

──胃痛トレーダーの逆転物語──

初めに

20年近くFXと向き合っているいちトレーダーです。全然センスが無くて、それでもようやく勝てるようになったのはここ数年の話。僕の4半世紀にわたる葛藤をまとめてみたので、ほんの少しでも同じように悩んでいる方の参考になればと思い書いています。

【起】「怪しい世界への入口」

FXを始めたのは、世間がそれを“詐欺”や“騙される”と囁いていた時代だった。

いまや高校生でもスマホでFX口座を開設できる時代だけれど、当時は違った。スプレッドは広く、証拠金は高額、何より追証が発生する。ひとたび逆行すれば口座残高がマイナスになり、さらに請求書が送られてくる。そんな世界に、なぜ僕は足を踏み入れたのだろう。

その頃は、株のほうが圧倒的に人気だった。特にライブドア株。数百円という誰でも手が届く価格帯で、多くの若者が夢を託した。ホリエモンの姿に時代の先端を見た気がして、僕も憧れていた。

けれど、なぜか心を惹かれたのは為替の世界だった。24時間動き続けるチャート、世界中の出来事がダイレクトに反映される市場、そして何より、自分だけの判断でポジションを取れる自由。

最初の頃は、オシレーターの虜になった。MACD、ストキャスティクス、RSI、CCI、あらゆる指標を重ね、まるでクリスマスツリーのようなチャートを眺めては自己満足に浸っていた。これがプロの分析環境だと信じて疑わなかった。

だが、勝てない。全く勝てなかった。

インジケーターがいくつ重なろうが、ローソク足は一つしか存在しない。一つの現在しか見ていないのに、過去の平均や傾向を重ねても、未来は教えてくれなかった。

そうして僕は、負けを重ねていく。


【承】「知識という名の迷路」

それでも諦めなかった。次に僕が求めたのは“本”の中の手法だった。特にPanRolling社が出版しているFX関連書籍を片っ端から読んだ。僕の本棚は、いつしか為替専門書で埋まっていった。

特にお気に入りだったのが、ボブ・ボルマンの『FXスキャルピング』。これは70ティックチャート(1ローソク足が70ティックで形成される)という特殊な足で超短期トレードを行うというもの。押し目買い、ブレイク、全てが緻密に設計されていて、トレンドに逆らわず“波に乗る”という考え方には非常に共感した。

だが、1年以上この手法に取り組んでも、やはり僕は勝てなかった。知識は増えても、利益にはつながらない。今振り返れば、欲が先行して大局が見えていなかったのだと思う。

もう一つ、強烈に印象に残っている本がある。アル・ブルックスの『プライスアクション』。スリープッシュ、ツーレッグといった造語が飛び交い、読みにくさはあったが、チャートの本質に切り込んだ一冊だった。チャートの動きが「参加者の心理の集合体である」と意識し始めたのはこの頃だった。

だが、それでも勝てない。あらゆる知識は増えていくのに、口座残高だけは減っていった。


【転】「自動売買という夢と崩壊」

精神的にも限界が近づいていた。損切のたびに心臓が跳ね上がり、ちょっとした逆行で胃が痛くなる。チャートを開くのが怖くなった。

そこで辿り着いたのが、自動売買だった。

MT4のEA(エキスパートアドバイザー)を導入すれば、自分の代わりにロボットがトレードしてくれる。それだけで心が軽くなった。けれど、プログラミングの知識も、勝てるロジックも僕にはなかった。

そこで手を出したのが、市販されていた高額EA。価格は約50万円。

驚いたことに、最初の3カ月は本当に勝てた。資金は2倍になり、「このペースなら1年で16倍だ」と皮算用した。だが、そんなうまい話が続くわけがない。

それまで1日50pips程度だったユーロドルが、突然100〜200pips動くようになった。ボラティリティが上がり、EAのパラメーターは次第に合わなくなっていく。

やがて、損切が連発。一回の損失で80万円が吹っ飛び、それが数回続いた。自動売買に頼り切った代償だった。

僕は、何もできなかった。自分で開発したわけでもないから、パラメーターの調整もできない。ただ、崩れていく口座残高を眺めるだけだった。

資金だけでなく、家庭も壊れた。損失が続くたびにイライラし、妻とも口論になり、ついに彼女は出ていった。

チャートが嫌いになった。トレードなんて、もうどうでもいいと思った。


【結】「勝ちたいという欲を捨てて」

それでも、なぜかチャートは見続けていた。見ない日はなかった。

そんなある日、ふと気づいた。

──勝ちたいという欲が、自分の目を曇らせていたのではないか?

勝つことを諦めた途端、逆行しても恐怖を感じなくなった。そして、不思議と“動き出すタイミング”が見えてくるようになった。

行き着いたのは、「市場参加者の思惑」だった。

今の相場を動かしているのは、個人ではなく機関やAIだと仮定すると、ランダムにエントリーはしていないはず。入り口があり、出口がある。つまり、エントリーする根拠とターゲットが明確にある。

だったら、自分がすべきことはその根拠である“セットアップ”を見つけること。

この考え方に変えた途端、勝率とリスクリワードが改善した。

さらに気づいたのは、時間足との関わり方。スキャル、デイ、スイング。入る時間足が違うだけで、ホールド時間とターゲットが変わるだけ。今ではその境界線も意識していない。

僕はようやく、トレードと和解できた。

妻も戻ってきて子供も生まれ、家族3人と犬と猫と一軒家で暮らす生活を手に入れた。

そして今、これを読んでくれているあなたに伝えたい。

──もし、あなたが今、勝てずに苦しんでいるなら。

一度、勝ちたいという欲を捨ててみてほしい。諦めることは、負けることじゃない。視界をクリアにし、チャートが語りかけてくる声に耳を澄ますための、最初の一歩なのかもしれないから。

僕のトレードのベースであるセットアップについてはいつかまた書いてみようと思う。

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